これからの北海道の交通社会資本
〜交通機関のライフサイクルから考える〜
五十嵐 日出夫
(社)北海道開発技術センター会長
北海道大学名誉教授
運輸省入省後、北海道開発局港湾部、
北海道大学講師、助教授、教授、
北海道学園大学教授を経て現職。
著書に「土木計画数理」他。
1.今、再び「豊かさ」を問う
「豊かさ」とは、選択肢を多く持ち得ることである。そして「豊かさ」がもたらす余力は安全・安心を増進する。私の子供の頃、札幌はまだ貧しかったから、交通機関といえばバス、市街電車、鉄道(国鉄・定鉄)がせいぜいで、自家用車などはほとんど見かけなかった。しかし、今はどうだろう。素晴らしい舗装道路を多数の自家用車が走り、絵本でしか見られなかった地下鉄ですら、目の前にあるではないか。いずれにしても、現在では交通機関に対する選択肢が多く豊かになった。しかし、何か不安なのだ。この不安は一体、何に原因するのか。
2.北海道の交通機関のライフサイクル
エゾ地の交通機関は船だった。やがてこの地が北海道と改められ、明治13年(1880年)小樽―札幌間に全国では2番目の鉄道が敷かれ、内陸にも順次網が広がって行った。内陸交通では、鉄道が主役に代ったわけである。そして、戦後になると、道路が主役に入れ替わる。弾丸道路に始まる積雪寒冷地でのアスファルト舗装工法と機械除雪が技術的に確立され、自動車の普及とも相俟って本格的な道路時代がやってきた。
それに空港の整備と航空機の発達によって、今日では札幌―東京の日帰りも可能になった。そして、間もなく新幹線もやって来る。
このように交通機関のライフサイクルを考えると、主役が、船、鉄道、道路、…、と次第に交替してはきたが、いずれの交通機関も全く引退してしまったわけではない。
3.これからの交通社会資本のあり方
それは総ての交通手段がトータルとしてシステム化され、しかもリダンダンシー( redundancy )が備えられていることだ。確かに、北海道の一つ一つ、一本一本の交通社会資本を見れば大体は良いと言えるだろう。しかし、たとえば道路は網になっていない場合が多く、しかもリダンダンシーが貧弱である。
「あれ」がダメなら「これ」があるさ、というような、代替案があることで、我々は、はじめて安心し豊かな気持ちになれるのだ。しかし現在、もてはやされているB/Cのような単純な「効率性評価基準」だけでは、地域の安全・安心は評価できない。それを評価するとすれば、全国を先進地域と開発途上地域に分けて、前者では社会資本整備の評価基準を「効率性評価基準」とし、後者では「生活性評価基準」も二重に併用する。
こうすれば、わが北海道は「豊かな美し国、安全・安心な国土」へと成長し、全国、そして世界により一層の貢献ができる「期待の土地」になれるだろう。